第3章 【第三講 前半】小説版に時系列なんて最早ない
「○○は笛吹きながら歌が歌えるんだ。あんなもん、お茶の子さいさいさいだろ」
「さい一個多いですよ。てか、○○さんがそんな曲芸できるなんて、聞いてませんよ」
「アレ? 知らなかったっけ? ああ、そうか。お前、アレ見てねーのか」
「アレ?」
以前、吉原商業高校で文化祭が行われた際、河上万斉が知人に頼まれ、音楽コンテスト出演者をオーディション形式で選んだことがあった。そのオーディションに参加した○○は、縦笛を吹きながら歌を歌う――しかも自らハーモニーまで奏でるという芸当をやってのけた。
「そんなオーディションがあったこと自体知りませんでしたよ……。てか、その話、まだここに書かれてなくね?」
その話――つまりは『冷血硬派高杉くん』沿いに関しては、そのうちに書かれるかもしれないし、書かれないかもしれない。
「で、だからってなんで、○○さんが歌って指示出ししてるんですか」
「ラジオ体操の音源用意すんの忘れたっつーから、○○にやらせたんだよ」
「誰が」
「俺が」
「お前かィィィ!!」
新八にツッコまれながら、銀八は胸の運動をする。
「大体、俺にそんなもん用意させようなんて、間違ってんだろ? そんなもん、体育教師の松平のとっつァんにでも任せときゃよかったんだ。俺に託そうなんざ、忘れて下さいって言ってるようなもんだろ。確信犯だろ」
イチニッと、銀八は異様な程、真面目にラジオ体操を行っている。
「責任逃れしないで下さい」
「横曲げの運動ォォ!!」
校庭でそんなやり取りがなされているとは知らない○○は、目を輝かせて人間ラジオを担当していた。
眼下に豆粒のように見える人間達が、全員自分の言葉に従って動いている。こんな快感はない。
それはまるで、
「チャンチャチャチャーンチャーン 人がゴミのようだァァ!! ご、ろく、しち、はち!」
「……え?」
新八は前屈運動をしながら頬を引きつらせた。
メロディに紛れておかしな言葉が聞こえた気がした。
だが、○○がそんなム●カ的なことを言うはずがない、きっと聞き間違いだろうと思い込む。