第186章 呪⦅宿儺ver⦆
ぎゅっと宿儺さまの着物を掴んで そう言うと、宿儺さまは太い腕で私を抱き締め、大きな手で私の頭を撫でてくれた。
「俺は今まで誰かを好きになった事はない。生涯お前だけだ」
『…本当?』
「あぁ」
『……私が死んだ時。宿儺さまの【誰かを好きになる】って言う感情を持って逝ってもいい??』
「 なな が望むなら、そうすれば良い」
宿儺さまは優しく答えてくれた。
『私が生まれ変わって、宿儺さまに出逢えるまで、宿儺さまは誰も好きになれないんだよ??』
「俺は なな だけだと言っているだろう、安心しろ。
【恋】だの【愛】だのは お前に全てくれてやる」
ちゅ、と宿儺さまの唇が私の唇に触れた。
『うん、約束だよ』
私からも宿儺さまの唇に触れると、宿儺さまは優しく微笑んだ。
☆ ☆ ☆
「両面宿儺。彼は己の【快】【不快】のみが生きる指針なのさ」
夜風が冷たく体を冷やす頃、なな は屋敷の縁側で俺の腕の中で静かに息を引き取った。
己の温もりか なな の温もりか分からないまま、強く抱き締めてしまえば折れてしまうのでは無いかと心配するほど細いその体を、俺はいつまでも抱き締めた。
昔の頃のように町や都を襲う事で、なな の居ない空虚感を埋めようとしたのだ。
俺が暴れれば暴れるほど、人間は生け贄として女、子どもを差し出した。
どんな女も なな には敵わない。
俺の【誰かを好きになる】と言う感情は なな が持って逝ってしまったからなのだろうか。