第186章 呪⦅宿儺ver⦆
隣の老人の頭から吹き出した血液を浴びた男は、なんとも無様な悲鳴を上げ、その場から逃げようと急ぐ気持ちと裏腹に動かない四肢をジタバタとしていた。
「………」
そんな男も宿儺さまは無言でキンと切り捨てた。
その場に転がる2つの肉片から溢れる血溜まりを踏み、宿儺さまは私の頬に優しく触れた。
「ケヒッ。気に入ったぞ。名は何と言う?」
『 なな と申します』
無情にも人を切り捨てる様を目の当たりにしていたにも関わらず、私は不思議と宿儺さまに対する恐怖は無かった。
ただ、触れた頬が熱くなるのを感じた。
「 なな … 」
私の名を繰り返し、宿儺さまは「行くぞ」と言って、私を抱えて宿儺さまの屋敷へ飛んだ。
自分では生み出す事のできない速度に呼吸が乱れ、ハッハッ、と過呼吸になった私の背を宿儺さまは優しく撫でてくれた。
息苦しさから涙が浮かんだ目で宿儺さまを見れば、宿儺さまは「大丈夫か?」と聞いてくれた。
呼吸も落ち着き、宿儺さまにお礼を伝えると「死なれては困るからな」と少し照れくさそうに言った。
生け贄として宿儺さまの元に来た私は、宿儺さまにいつ喰われても良いと思っていた。
そんな話をすると宿儺さまはケヒと笑うのだ。
「喰い殺すのは勿体無いだろう。
別の意味で食ってやりたいとは思うがな」
『別の意味??』
首を傾げる私の頭を宿儺さまは優しくポンポンとした。