第186章 呪⦅宿儺ver⦆
「 なな さま、こちらへ」
女中が私の前で頭を垂れ、先導した先は湯船だった。
何年ぶりの湯浴みだろうか。
ほかほか と蒸気をあげる浴室に、香り付けのためだろうか、柚が浮いていた。
外気の温度と浴室の温度差で空咳が出る。
「大丈夫ですか?」
『…っゴホゴホ…ゴホッ …大、丈夫 …っ………』
途切れ途切れに返事をし、浴室で髪を洗ってもらった。
初め、汚れが酷く泡立たなかったが、何度目かで やっと泡立った。
ほとんど香りはしないが、優しい椿の香りが鼻をかすめた。
入浴後、伸びきった長い前髪と不揃いになった髪を綺麗に整えて貰い、小さな貝殻に入っている紅を唇と頬に薄く塗られた。
「準備はできたか」
白い着物に袖を通し終わった頃、腰に刀を差した男と、その隣には父に長く遣えている老人がいた。
「それでは行きましょう、なな さま」
私は何も言わず、男と老人の後ろを付いていった。
そして連れていかれた場所で私は宿儺さまと逢った。
周りの人より遥かに背が高く、太く延びた腕は4本あった。
1対の腕は腹の前で組まれ、もう1対の腕は武器を構えていた。
宿儺さまは私を品定めするかのように見た後、少しだけ口角を上げた。
「なかなか良い女だ」
その言葉に老人や男は安堵したようだった。
「では、我が都だけは
そう言いかけた老人の頭がキン、と2つに離れた。
「ヒ、ヒィいイイッ!」