第186章 呪⦅宿儺ver⦆
「… なな さま、こちらへ」
母の言葉に従うように女中は私を呼び、そのまま私は奥座敷へ幽閉された。
幽閉中、私の元に来るのは食事を運んでくれる女中だけだった。
女中は忙しそうに動き回っていたため、私は誰とも話すこと無く過ごした。
そんな生活が続いたある日。
私は自分の部屋の小窓の向こうに赤い夜を見た。
暗い夜空を染めるほどの赤。
遠くからは警鐘の音(ね)が聞こえた。
外で何が起こっているのかなど私には知る術(すべ)も無かった。
それから何度か夜空を染める赤を見た。
その日、私の元に来たのは女中では無く、腰に刀を差した男だった。
「 なな さま、当主がお呼びでございます」
幽閉されてから、とかした事の無い長い髪はボサボサだった。
前髪も伸び、私は長く伸びた前髪の間から父と母を見た。
「こんな貧相な体で鬼神さまは見逃してくれるだろうか?」
父は隣に座る母に聞いた。
「仮にも貴方と私(わたくし)の子ですから、容姿は申し分無いはずですわ。
唇と頬に紅をさして色味を足せば多少 健康的に見えるでしょう」
扇で口元を隠しながら母は冷たい視線で私を見た。
「本当に良いのか?」
何の話をしているのか検討もつかない私をよそに、父と母は話を進めていた。
「えぇ。病弱な その子の死期を この都のために使うなら、その子も本望でしょう」
冷たい視線。
冷たい声。
母の言葉で、私は都のために死ぬのだと感じた。