第186章 呪⦅宿儺ver⦆
リーン リン リン …
リン リン リン …
「体を冷やすぞ なな 」
男性特有の太い声が私の名を呼ぶと、そのまま抱き締められ背中から相手の温もりが伝わった。
私の腹に回された太い腕に そっと手を置き、愛おしい貴方の名を呟いた。
私が宿儺さまの所に来たのは生け贄としてだった。
そんな私を宿儺さまは気に入ってくださり、私を甘やかせた。
☆ ☆ ☆
「鬼神さま、どうか この生け贄に免じて我が都だけはお見逃しください」
都の使いは頭(こうべ)を垂らし、私を差し出した。
私は都の当主の娘として生を受けた。
しかし病弱な私は、嫁いだとしても子は産めないと医者は父と母に そう言った。
跡継ぎや自分の勢力を広げるために たくさんの子が欲しかった父は、正室の母以外にも、側室との間に子をもうけた。
私が4つになる頃、父と側室の間に男児が産まれた。
父は男児を大事にし、正室の母は やっきになり父との子をせがんだ。
ようやく父との子を懐妊した母は また女児を産んだ。
年の離れた私の妹は、私とは異なり元気に育った。
いつの間にか病弱な私はお払い箱になったのだ。
『ケホッ ケホッ……っヒュ…………』
止まらない咳に苦しんでいると、私を見た母は言った。
「耳障りだわ。その子を遠くにやって ちょうだい。この子が起きてしまうでしょう?」
母は まるで汚いものでも見るかのような視線で私を見、自分の腕の中で、静かに寝息をたてる妹に優しい視線を戻した。