第145章 麻痺⦅宿儺 ※暗⦆
『村人のために死ぬのは癪(しゃく)でしたが、あの村に未練も無い。
殺されるなら貴方が良いです』
さぁ殺してくれ と言わんばかりに両手を広げ、眼を閉じる なな に宿儺は呆気にとられた。
「死に急ぐ者を殺してもつまらん」
宿儺は そう言い、その日は なな を殺す事は無かった。
次の日。
宿儺は なな の前に現れた。
その1本の手には血まみれの死体を掴んで。
宿儺はソレを なな の前にポイと投げ捨てた。
ギリギリ人の形を保っていたソレを見た なな が小さく悲鳴をあげ、ガタガタと体を震わせる様子を見て宿儺は口角を挙げた。
「ケヒッ。俺が恐ろしいか?
お前もソレのようになるのだ。
さぁ、泣いてみろ。叫んでも良いぞ」
鋭く尖った長い爪を なな に向け、宿儺は楽しそうに笑った。
『貴方に殺されるのは恐ろしくありません。
ただ…死体を見たのは初めてだったので驚いたのです』
先程までの震えは止み、あの時と同じ真っ直ぐな眼で宿儺を見る なな に、宿儺は笑みを消して「…つまらん」と姿を消した。
そして、次の日。
宿儺は拘束をし、目隠しをした人間を連れてきた。
なな が首を傾げ、黙って宿儺を見ていると「お前に良いものを見せてやろう」と愉しげに言った。
『?』
宿儺は連れてきた人間の目隠しを外すと、なな の居た村人だった。
「…なな 、お前 無事だ【キンー…】
なな に声を掛けた村人の言葉は宿儺によって途切れた。