第1章 ジル=クリストフ
私たちを乗せた馬車は国境付近の森につけられた。
そこからはジルと2人きり。後ろから抱きしめられるように一頭の馬に乗りジルが手綱を握る。
城を出発してからジルは一言も喋らない。
何がそうさせてしまったのか分からぬまま、
馬は森を抜けて湖の畔に辿り着いた。
キャリー「わぁ…」
思わず感嘆の声をあげる。
湖の周りは菜の花が覆い、更に上には桜が咲き乱れ空と湖の青と見事なコントラストを見せていた。
私がその景色に言葉を失っていると馬を繋いだジルがやってきて私に微笑みかける。
ジル「どうですか?」
キャリー「とても…とても素敵で…」
ジル「初めて貴女をお見かけしたのも花畑でしたから…。この季節にしか見れない景色をお見せしたいと思ったんです。」
***
ジル「そんな土まみれの服では広間に戻れないでしょう。」
***
あの時からジルは素敵で城に集まった女性達も目を奪われていた。
私は少しはジルの横に立っていておかしくないレディになれただろうか。
ジルを見上げると目を細め訪ねられた。
ジル「何を作って下さったのですか?」
キャリー「サンドウィッチです。お口に合うといいんですが。」
近くの木陰に座るとサンドウィッチを食べる。食べながらアランに言われた祝辞をジルに伝える。
ジル「キッチンでそんな話を?」
驚いた表情から自嘲のような笑みを漏らす。
キャリー「ジル?」
ジル「なんでもありません。自分が成長出来ていない事におかしくなりました。」
そう言うと立ち上がり湖へと足を進めた。
湖畔にあったボートに乗り込み湖の上でジルと離れていた時間にどんな事があったのか、今までの事、将来のことなど、他愛もない話をする。
こんな何でもない時間を私はずっと待ち望んでいた。
幸せすぎて再び湖畔に戻ったボートから降りるのを躊躇ってしまうくらいに。
ジルは先にボートから降りて私の手を引き寄せてくれた。
ジル「そろそろ馬車に戻りましょうか。」