第4章 きっかけ
七海は医務室を後にし、薄暗い廊下を歩いた。
廊下を歩いていると、蛍光灯の明かりの下に誰かがこちらに歩いてくるのが見えた。
その人物は七海に気がつくと、はっとしたような表情をして自分の元まで駆けてきた。
…きっかけは自分でも些細なことだったと思う。
随分と心配させてしまったのだな、
とただ単純にそう思った…
「七海さん、気が付いたんですね。はぁ、よかった」
そう言って彼女、明月雫はほっと胸をなでおろした。
「今日はアナタに助けられました。ありがとうございます」
「いえ、お礼なんていいですよ。無事で良かったです」
明月はにこっと照れながら微笑んだ。
七海のサングラスの奥の瞳に、明月の姿が映っていた。
黒い大きな瞳、すらっと伸びた四肢。
物々しいイメージをもつ呪術師とは違った印象だが、
彼女も呪術師のひとりであることに変わりはない。
「体調はどうですか?」
「少々違和感はありますが、まぁ動ける範囲でしょう」
「そうですか……。くれぐれも無理しすぎないでくださいね」
「ええ。分かっていますよ」
明月は胸に手を当ててハァーと息をついた。
「ところで、虎杖くんには会いましたか?」
七海が聞く。
「いいえ、まだ」
「そうですか。今回の件で、私と同じように
いずれ明月さんも彼と接触する機会が出てくると思います。そう認識しておいてください」
「虎杖くん、宿儺の器…ですね。わかりました」
「長居をしては迷惑でしょう。私は失礼します」
明月はこの後夜勤の予定だったので、七海の申し出を受け入れた。
「はい。七海さんもお大事に。お気遣いありがとうございます」
「それでは、また次の任務で」
そう言って七海は暗い廊下を去っていった。