第3章 映画
「いえ、言いすぎました。今日は明月さんがイヤだったようなので、それなら問題ありません」
「あ、そんなわけでは…今日は散らかっていたので……」
七海は一瞬、意外そうな顔をする。
「そうですか。失礼しました。私は家に招かれたくないわけではないので」
「え?」
ほんのわずかな時間、沈黙が流れた。
「…。よかったら今度、七海さんの家に遊びにいっても良いですか?」
「明月さんが嫌でなければ、歓迎しますよ」
断られるのを覚悟の上で聞いてみたので、思いのほかすんなりとOKの返事がもらえて明月は虚をつかれる。
とともに、嬉しさが込みあげてきた。映画に誘われた時も嬉しかったが、七海の家に行くとなれば、喜びはひとしおだ。
「あ、嬉しいです! では、また機会があれば、七海さんのご自宅にうかがいます」
「ええ。どうぞお越しください」
明月はぺこりと頭を下げて、もう一度お礼を言った。
「今日は送っていただいて、ありがとうございました。また次の約束を楽しみにしています」
「ええ、私もです。機会を見てまたスケジュールを調整しましょう。誘います」
「それでは明月さん、少しこちらへ寄って目を閉じて」
何だろうと思いながら壁の方に寄ると、
頭のうしろに片手をそっと置かれ、おでこに触れるだけの優しいキス。
びっくりして目を開けると、
優しい瞳に見つめられた。
見つめ合ったあと、恥ずかしさのあまり真っ赤になった明月。
「では、これで」
七海は挨拶をしてさっそうと帰ってしまった。