第17章 沖田総悟《夏の御祭り》
生け垣に腰を下ろしていた○○は、見知った顔を見つけた。
屯所でよく見かける、監察の山崎だ。
彼は美味しそうにたこ焼きを頬張りながら歩いていた。
制服を着ていたし、山崎も勤務中のはずなのだが。
山崎の姿を見送ると、○○は立ち上がった。
人が美味しそうにたこ焼きを食べていると、自分も食べたくなる。
一箱を注文し受け取ると、階段の隅に腰を下ろした。たこ焼きを頬張る。
たこ焼きは美味しかった。でも、侘しい。
「一人はつまんないよ、トシ兄」
――見て見て! トシ兄!
射的も、ヨーヨー釣りも、金魚すくいも、そうして笑顔を向けられる相手がいるだけで楽しい。
一人で遊んでも、ちっとも楽しくなんかない。
○○は青海苔のついた球体を楊枝で突いた。穴だらけになるまで、突いた。
「食いもんを粗末にすんじゃねェ」
背後からの声に○○は体を強張らせた。
振り返ると、○○の座っている段よりも二つ上の段に沖田が座っていた。
沖田は○○の手からたこ焼きの箱を引っ手繰った。
数多の穴のあいた球体に、沖田はさらに穴を開ける。
「トシ兄、トシ兄って、どんだけブラコンなんだ、テメェは」
○○は口をへの字に結び、視線を落とした。
「ブラコンじゃないよ。トシ兄以外に、話が出来る人がいないだけだよ」
「だから、祭りも毎年兄貴と行くってのか」
○○は小さく頷いた。