第2章 桂小太郎《愛し言の葉》※攘夷戦争時/シリアス/夢主自害ネタ
俺を見る冷たい瞳は、感情を失くした人形の瞳などではなかった。
すべてを拒絶した、疑心の瞳。れっきとした、感情を持つ者の瞳だった。
お前は俺を試していた。俺がいつ、欲念の虜となってお前を裏切るか――
自我を持って行動していたことに、俺は気づいてやれなかった。
「名を……教えてくれ」
死の淵にある今になって、俺はその瞳に精気を感じることが出来た。
だが、既に俺の顔は、ぼんやりとしかその目に映っていないだろう。
「……○○。□□、○○」
体中の血液を奪われ、その体にはもう、生きている者の温もりはない。
このままにしておけば、一体、あとどれ程の苦しみを味わわせることになるのか……
最後の言葉を、俺は告げた。
「○○……愛している」
疑心のない澄んだ瞳で、○○は微笑んだ。
「ありがとう、小太郎」
俺は、握った短刀を突き出した。
○○の鼓動は、静かに刻みを止めた。
お前を見つけた時に、すぐに町に届けていれば……
人並みの暮らしに戻れたかどうかはわからない。だが、死なずには済んだのではないか。
○○を傍で見守っていたい。そんな俺のエゴのせいで、結果的に○○を死なせてしまった。
――貴方の腕の中にいる時が一番幸せだった。
腕の中で安らかに眠るその顔に、俺の涙は間断なく流れ落ちる。
「○○……お前は本当に幸せだったのか?」
問いかけに答えてくれる言葉は、もう、聞こえない。
(了)