第14章 志村新八《嫁に来ないか》
彼女は、□□○○さんというらしい。
なかなか名うての実業家の娘で、この度、縁談が持ちかけられたとか。
間もなくその縁談相手がやって来ることを、今朝、突然告げられたという。
その話を僕は今、○○さんの部屋の中で聞いている。今、僕は年頃の娘さんと部屋で二人きりという状況。
「○○さん……」
彼女はベッドに腰掛けている。僕は着物を脱ぎ棄てた。
そのまま僕は○○さんに……なんてことはもちろんなく、
「これ、何ですか……」
脱いだ着物の代わりに、渡された着物を身にまとった。
「だから、お嫁に来てほしいんですってば」
渡された着物は、女物。
吉原やら、かまっ子倶楽部やらで女服も慣れているとはいえ、こうもすんなり着られてしまう自分が嫌になる。
「なかなか似合いますね」
○○さんは僕の姿を見て、頷きながら感心している。
「次はメイクです」
僕のメガネを取り、○○さんは化粧を塗りたくった。アイメイクまでバッチリと施しているようだ。
僕の顔を覗き込む、○○さんの顔が目の前にある。
メガネなしでも、この距離ならば充分によく見える。僕は目を閉じた。
このまま間近で○○さんの顔を見ていたら、ドキドキで気が狂いそうだ。
「あとは髪型ですね。いくつかウィッグの種類ありますけど……」
顎に手を当てて、○○さんは考える。
僕の女装時の髪型といえば、相場が決まっている。
「おさげが似合いそうですね」
やっぱり。
誰が見ても、イモい僕の風貌には、イモい田舎の女学生風の髪型が浮かぶらしい。
「名前はえっと……パチ恵ちゃんでいいかな?」
そっちもかィィィ!