第14章 志村新八《嫁に来ないか》
一風変わった依頼を持って彼女がやって来たのは、桜が咲き始めた頃だった。
《嫁に来ないか》
――ピンポーン。
朝食前、そのチャイムは鳴らされた。
「はーい! 今、出まーす!」
まだ銀さんと神楽ちゃんは夢の中。
僕は朝ご飯の支度をしている手を止めて、玄関へと向かった。
――ピンポーン。ピンポンピンポンピピピピピピピピンポーン。
「はーい!」
しつこく何度も何度も鳴らされるチャイム。
何かの勧誘だろうかと、半ばイラつきながら扉を開けた。
「新聞なら間に合ってますよ!」
なめられないようにガンを飛ばした僕の目に飛び込んだのは、
「すいません。急ぎの依頼があるんです」
およそ新聞の押し売りとも、宗教の勧誘とも思えない、可愛らしい少女だった。
深々と丁寧にお辞儀をした後、僕と視線を合わせた。
「すいません。聞いてますか?」
「え? あ、はい。依頼? あ、はい! い、今、銀さ……社長を呼んで来るので、少々お待ち――」
踵を返そうとした僕の手を、彼女は掴んだ。
「貴方だけでいいんです」
「え?」
「貴方個人への依頼です。今すぐ、私と一緒に来て下さい」
僕は半ば強引に、彼女に拉致される格好で万事屋を後にした。
真っ直ぐに前を見据えて歩く彼女は、未だに僕の手を握ったまま。
内心ドキドキしながら、その後頭部に話しかけた。
「あの……どんな依頼なんですか?」
本当に僕だけで大丈夫なのだろうか。
銀さんと神楽ちゃんを頼りにしている自分が情けないけれど、一人だとやはり心許ない。
彼女は立ち止まり、振り返った。
「お嫁に……お嫁に来て下さい」
「……は?」