第13章 高杉晋助《雪桜》
松陽を助け出すために、高杉は村を出る。
いずれその日が来るだろうことはわかっていた。
許嫁となってすぐに、○○と一緒になる気はないと高杉にはっきり告げられた。
幹に触れる○○の手の甲に、白いものが舞い落ちる。
顔を上げると、花びらの間から真っ白い雪が降り注いでいた。
雪が強さを増している。
「お前はもう戻れ」
空を見上げ、高杉は呟いた。
「晋助はまだ戻らないの?」
「一緒に戻るわけにはいかねーだろ」
「そうだね」
雪と共に、一枚の花びらが○○の頭に降り注ぐ。
高杉は○○の髪から花びらと雪を振り払う。
見上げて来る○○の目を見つめ返す。
父親は自分のことを全く理解していないが、○○を許嫁に選んだことだけは正しかった。
だが、そのたった一つの正しい選択は、受け入れられるものではなかった。
傍にいてやれない自分には、○○と一緒になることは出来ない。
○○の頭を引き寄せる。
微かに触れる唇。時期外れの寒気に冷えた、華奢な唇。