第13章 高杉晋助《雪桜》
「結納すっぽかしといて、キスしないでよ」
高杉の胸に額を当て、○○は小さく言葉を落とす。
かじかむ両手を高杉の両腕に添える。
「結納すっぽかされた相手にキスされて、抱きつくんじゃねェ」
高杉は○○の体に腕を回した。
「つめてー体だな。こんな薄着で出て来んな」
「こんなに寒いと思わなかったんだもん」
三月下旬。
時期外れの雪は、予想外の寒さをもたらしている。
「○○」
高杉は○○の体に回す腕に力を込めた。
自らの体温を○○に分け与えるように。○○の感触をいつまでも忘れないように。
意識の全てをその腕に込める。
松陽が捕らえられていなければ。村を出ることがなければ。
○○の傍にいることを選んでいた。
「晋助……好きだよ」
桜の木は全てを見て来た。
自分達の行く末を知らずに笑い合う、幼き日の○○と高杉を。
別の道を歩むことを選んだ、二人の別れを。
(了)