第12章 河上万斉《拙者達のどうでもいい日常》
「何をしているでござるか」
十人程の隊士が車座になって集まっていた。
近頃、隊士達の魂の鼓動が狂っているでござる。
武骨な鼓動のみを刻んでいた隊士達から、バラードが聞こえるでござる。
「万斉さん」
男達の中からひょこりと、その女は笑顔を覗かせる。
拙者の眉間には皺が寄った。
近頃の場違いな鼓動は、この女によって奏でられている。
○○の指揮に翻弄され、武骨な曲が柔らかい物へと変化した。
「何をしているでござる」
拙者は部屋の中へと足を運んだ。
○○が入隊してから、早、三ヶ月。
近頃、狂っているでござる。
○○は口に指を当て、奥を指さした。
そこでは、一人の隊士が電話を耳に当てている。
「拙者拙者……今ちょっと大変なことになってて」
「新しい資金稼ぎの方法です」
○○はニコリと笑顔を見せた。
縁者を装い電話をし、指定する口座にお金を振り込ませる。
「いい手だと思いませんか」
最近、巷で拙者拙者サギなるものが横行していることは知っていたでござるが。
この船の中で、鬼兵隊士によって行われていたことは知らなかった。
「どうでした?」
電話が切られているのを見て、○○は声をかけた。
「成功です。一時は“とどめさして逃げてこいヨ”とか言われたけど、あれは振り込みに行く雰囲気でしたね」
○○は満足そうに笑っている。
「次は私の番ですね」
○○は立ち上がった。
今日もまた、○○は男達を引っかけに街へ行く。
こんなガキに騙される男がいるとは信じられんが、この部屋にいる男達を見れば一目瞭然。
誰も彼も、口元を情けなく緩めて、○○の背中を見送っている。