第12章 河上万斉《拙者達のどうでもいい日常》
「いつまで危ないことを続けるつもりでござるか」
船外へと向かう○○の背中に声をかけた。
拙者の肩にも満たないその身長。
「危ない?」
○○は目を丸くして振り返る。
「金を稼ぐ方法は他にもあるでござる」
今まで失敗したことがないとはいえ、これからもそうとは限らない。
いくら話術に長けているとはいえ、金品を漁っている現場を見られれば言い逃れは出来ぬでござろう。
逆上した男に襲いかかられれば、○○では一溜りもない。
「そんなヘマはしませんよ」
自信満々に○○は笑みを湛えている。
拙者の忠告には耳も貸さず、○○は揚々と仕事に向かう。
「万斉さん?」
拙者はその腕を掴んだ。
「金輪際、その方法で資金を稼ぐことはまかりならん」
狂わされているのは、拙者も同じ。
仕事に出て行く○○を見送る際、拙者の魂はいつも大きく乱される。
「振りとはいえ、惚れた女が男とホテルに行くことを見逃せる程、拙者は寛容にござらん」
拙者も同じでござる。
こんな子ども相手にその話術に嵌り、すっかり鼓動を狂わされている。
「万斉さん……」
それに、このままでは○○を巡って隊内で揉め事が起こる可能性がある。
そうなる前に、○○に一人を選ばせる必要がある。
その役目は、隊の上位の者でなければ務まらん。
「わかりました。惚れた男にそう言われちゃ、私も言うことを聞かないわけにはいきません」
○○ははにかんだ笑顔で拙者を見上げた。その表情に、拙者の鼓動はますます掻き乱される。
この有様じゃ、武市を馬鹿に出来ないでござる。
ロリコンじゃない、フェミニストだと、拙者も言って通すことになるのでござろうか。
拙者の言葉に、○○は首を傾げた。
「何言ってるんですか。私、万斉さんと同い年ですよ」
知らなかったんですかと、つぶらな瞳で拙者を見上げる。
その様は、さらにその姿を幼く見せる。
まさか……。そういえば、武市は一切、○○に興味を示していなかった。
人間、見た目ではわからんものでござる。
(了)