第12章 河上万斉《拙者達のどうでもいい日常》
近頃、隊士達の魂の鼓動が狂っているでござる。
規律を失くした集団は、烏合の衆と化すのみ。
それもこれも、あの女が入隊したせいでござる。
《拙者達のどうでもいい日常》
「戦いには向かないので、資金稼ぎに心血を注がせていただきます」
小さな体に、あどけない笑顔。
攘夷志士には不釣り合いな姿を携えて、○○は鬼兵隊に入隊した。
何の因果か、拙者は○○のお守り、もとい指導を晋助に任されたでござる。
天人相手の交渉はお手の物でも、ガキの世話は御免被りたい。
「具体的に、どうやって資金を調達するつもりでござるか」
○○は不敵に微笑んだ。
「体で、です」
その場にいた全員が、ぽかんと口を開けて○○の体を凝視した。
こんな女に手を出すのは、武市くらいでござろう。
*
○○の策は単純明快。
男をホテルに連れ込み、シャワーを浴びている間に金品を奪う。
それがまた手際のよいこと。
次から次へと男を引っかけ、あっという間に財布を取って戻って来る。
「世の中、武市ばかりでござるか?」
そういうわけではないようでござった。
○○は話術で相手を誑し込む術に長けていた。
体目当てではなく、話がしたくてホテルまで同行する男が多いようでござる。
その話術のせいか、隊士達も一人、また一人と○○に取り込まれている。
○○を囲み、和やかな雰囲気が醸し出されている。
そんなものが鬼兵隊に必要なはずがない。
あってはならないものでござる。