第10章 沖田総悟《人間なんてチョコより甘い》
「よォ、○○」
我に返ったのは、男が左手を上げて馴れ馴れしく挨拶して来た時。
途端に、○○は表情を歪めて声を上げる。
「げ!」
「げ、って何でィ。客だぜィ。俺ァ」
その男は真選組一番隊隊長、沖田総悟。
毎度毎度、バズーカをぶっ放ち、店を破壊して行く張本人。
「何でィ、この店。こんな時間に人っ子一人いねえのか」
現在店内には、○○と沖田、それからレジにいる店長以外に人影はない。
攘夷浪士と真選組の争いの直後は、いつも閑古鳥が鳴く。
乱撃時にいた客達が帰ってしまうのはもちろんのこと、半壊している店に入る人間などいないのは当然だ。
「何ですか。忘れ物でもありましたか。砲弾とか」
「何言ってやがんでィ。一仕事終えての腹ごしらえだ。それにしても、寒ィ店だな。露店か? 露店気取りか? コノヤロー」
沖田はガラスのない窓に目を向けた。
「誰のせいだ、コノヤロー!!」
声を荒げる○○など気にもせず、沖田は奥の席へと向かった。
入り口から一番遠い、暖房の真下にある席。
「勝手に座るなァァァ!」
「他に客もいねーんだ。席くらい選ばせろィ」
「誰のせいで客がいないと思ってんだ……」
ぶつくさと呟く声が聞こえているのかいないのか、沖田は刀をソファの上に置いた。
「腹立つんですけどォ!」
文句を垂れつつも、○○はイライラの原因のために紅茶を注いでいる。
店お薦めの、ダージリンティ。それから、チョコレートケーキを用意する。
「お待たせしましった!」
○○は紅茶とケーキを置いた。
営業スマイル。ただし、目が笑っていなければ、頬も引きつっている。
相手が沖田だから、という理由だけではない。
「いただきます」
沖田は両手を合わせると、フォークでチョコレートケーキを丁寧に切って口に運んだ。
○○はその様子を見下ろしながら、思わず言葉を漏らす。