第10章 沖田総悟《人間なんてチョコより甘い》
その日、仕事に行くと、店の扉がなくなっていた。
窓は枠だけになり、寒い冬の風が吹き込んでいる。
かぶき町にある、甘いケーキが売りの喫茶店。
しかし、現在の売りは商品より、戦争映画顔負けの乱撃シーンにあるかもしれない。
映画よりも大迫力の映像が見られることだろう。
「またか」
○○は口元を歪めた。
毎度毎度、攘夷浪士が店で集会を開き、毎度毎度、バズーカを持った真選組の隊士が乱入して来る。
破壊されても修繕費は払われない。そんな理不尽な被害を被っている店が、○○のアルバイト先。
《人間なんてチョコより甘い》
「あァ、面倒臭い」
○○は扉の前に仁王立ちになった。
扉のない、扉の前。今から、店の仮修繕作業に入る。
乱撃があった日の仕事は、この作業から始まる。
窓の代わりには段ボールを、扉の代わりには布切れ一枚を宛てがう。
とりあえず、入り口から。○○は布を暖簾のように上から吊るした。
「さすがにこの時期に布一枚は厳しいなァ」
夏場ならともかく、季節は二月中旬。一年で一番寒い時期。
そんな時期に吹き曝しでは、いくら暖房を効かせても店内は寒いまま。
○○は難しい顔をして布を見つめていた。すると、目が合った。
布を持ち上げ、入って来た男と。
突然のことに、○○と男はしばし見つめ合う格好になった。