第9章 山崎退《ツンとデレは4:1で》
「テメェ、仕事サボって女と密会たァ、いい度胸してんじゃねーか」
「副長!」
見廻りを終えて屯所に戻り副長に遭遇すると、開口一番言われた言葉。
瞳孔が開いている。
「サボりに気づかないとでも思ったか? なめてんじゃねーぞ」
○○にかかって来た電話を思い出す。
あれは、副長からのものだったらしい。
「な、何で○○の携帯番号、知ってるんですか……」
それ以前に、何で俺と○○の関係を副長が知っているんだ。
俺が○○と一緒にいると確信をもって、電話をかけて来たはずだ。
「誤認逮捕した時に調書取ってたんだよ。真選組に捕まったことで、あらぬ噂を立てられて、その後の生活に響くかもしれねーだろ。一生つながりを持ってサポートしていかなきゃなんねーんだよ、そういう市民にはな」
煙を吐き出すと、副長は俺を見下ろした。
「今回の場合は、思いも寄らぬ所で使われたもんだがなァ」
口角の緩められたその顔に、俺は漠然たる不安を感じた。
「とりあえず、罰則として給料三十パーセントカットだ」
「い!?」
不安は的中した。
「そんなことされたら、生活が……」
「知るか。真面目に働いて、また今の給料までアップさせることだな。何年かかるか知らねーけど」
去って行く副長の背中を見送りながら、俺はポケットの中で指輪を握り締めた。
生活が……
俺と、○○の生活が……
三十パーセントカットされた給料で女を一人養える程、俺は高給取りじゃない。
いつでも出来るはずのプロポーズは、金銭面で断念せざるを得なくなった。
(了)