第9章 山崎退《ツンとデレは4:1で》
午後一時。
大江戸遊園地の入り口で待ち合わせ。
三十分早く着いていた俺は、チケット売り場の前で○○を出迎えた。
俺が忙しいせいで、ほとんど電話でしか話の出来ない恋人。
「○○、久しぶり」
「久しぶり」
○○は小さく微笑んだ。
たぶん、俺にしかわからないくらい小さな笑顔。
○○はめったに表情を変えない。
それでも小さく口元を緩めていることに、俺はいつからか気がついた。
俺しか知らない、俺だけの○○。
「じゃあ、入ろうか」
チケットを渡し、ゲートをくぐる。
そんな俺には、もう罪悪感のカケラもない。
俺は今、大江戸遊園地を見張っているんだ。
隊服を着ていなくても、警察手帳は所持している。
非番兼見廻りで何が悪い。
土曜日の遊園地は、親子連れとカップルで賑わっていた。
誰も彼も浮かれ気分で、この日を存分に楽しもうという雰囲気が漂って来る。
それは俺も同じ。でも、心の中の緊張感は俺だけのもの。
計画のピークは、日没の観覧車でのシチュエーション。
今日は晴天。
この時期なら午後四時半あたりにオレンジ色の太陽が傾くはずだ。
とりあえず、それまではプロポーズのことは忘れて、遊園地デートを楽しもう。