第1章 高杉晋助《吉原に雨が降る》※遊女/夢主殺されネタ
着物を羽織り、○○は窓際に腰を下ろしていた。酒を嗜む。
高杉は上半身を起こし、煙を燻らせる。
煙管をしまうと、入れ替えるようにそれを取り出した。
「それは……紅?」
手には二枚貝が握られていた。
一枚が器、一枚が蓋となり、その中には紅が収められている。
「ああ……。○○に似合うと思ってな」
○○は目を丸くする。
幾人か贈り物をくれる客はいるが、高杉から何かをもらったことなど一度もなかった。
「どういう風の吹き回し? 嵐でも来るんじゃないかしら」
「そいつァ、心外だな。こっちに来いよ」
○○は猪口を置くと、褥の横に膝をついた。
高杉は親指に紅を薄く塗ると、○○の顎を持ち上げた。
その指で唇をなぞる。
「やっぱりな。お前には浅紅より、真紅の方が似合ってるぜ」
○○は白粉入れを取り出し、自らの顔を見た。
淡色の紅しか持っていない○○には、その赤はいとも鮮やかに映った。
薄明りの中でも、その彩りは浮かび上がって見える程。
「そうかしら……ちょっと赤すぎよ」
まるで、血を塗られたかのような唐紅。
高杉は貝殻に目を落とす。
「かもしれねーな。だが、死に化粧は派手な方がいいだろ」
「え?」
○○は高杉に目を向けた。
高杉は貝殻を握り締めた。二枚の貝殻が合わさり、蓋が閉じられる。
その視線はそのまま、閉じた貝殻に向けられている。