第1章 高杉晋助《吉原に雨が降る》※遊女/夢主殺されネタ
「難儀なものだわ、人の心は」
永遠に見られないと思うと、曇天の空へも想いを募らせる。
「○○」
空から顔を背けると、仄かな灯りで照らされた高杉の顔が目の前にあった。
部屋には天井に吊るされた小さな常夜灯の黄色い光と、街灯からの薄明りしか差していない。
目を瞑る。酒で淡く濡れた唇が、○○の呼吸を止める。
○○の腕を引き、高杉はその身を褥の上に横たわらせた。
「今日はずいぶんと急かすのね」
○○は体を強張らせる。高揚する体。悟らせまいと、緩やかな笑みを浮かべて虚勢を張る。
男になど抱かれ慣れている。それが仕事。ここに閉じ込められている限り、拒むことも出来ない。
それでも、彼を相手にする時だけは、仕事ということを忘れてしまう。
「四月ぶりだろ……?」
常夜の街から抜け出したいなど、それまでは考えたこともなかった。
この世界しか知らず、この世界を受け入れていたはずなのに。
今は外の世界に、高杉の住まう世界に、○○は憧憬している。
「酒の味より、○○の味に餓えてんだよ」
高杉は○○の両腕を押さえて伸しかかると、その首筋に唇を落とした。
「嘘ばっかり」
唇を離すと、高杉は○○の額に手を乗せ、その前髪を掻き上げた。
暗い室内。○○は高杉を見上げる。
包帯の巻かれていない右目だけが、淡い光を浴びて鋭く光る。
(難儀なものね……)
人を愛してはいけないと、わかっていたはず。
誰かを好きになど、なるはずがないと思っていた。
それなのに、惹かれてしまった。
初めて会った時、彼は階下から○○を見上げていた。
その時から、この目に強烈に囚われている。