第6章 山崎退《派手なアイドルよりも地味な君の方が輝いている》
「○○さん、『反侍』のファン……っていうわけではないですよね」
「ハンサム?」
反侍――確か、国民的人気を誇るアイドルグループ名と記憶している。
「見に来たけど、人の多さで体調崩しちゃったのかと思ったんですけど……。どうも興味がなさそうだったので」
山崎は参道でロープを張り、人の波の整理をしていた。
その目に○○が映った。その表情は周囲のギャル達とは明らかに異なっていた。
――(拝殿)国民的アイドルグループ『反侍』年越しコンサート。
境内の入り口には、そう書かれた瓦版があったという。
「気づきませんでしたか」
「全然、気づきませんでした」
例年と同じように何も考えずに拝殿に向かったため、見落としたらしい。
人混みの苦手な○○は、混雑している本殿は避け、いつも拝殿に詣でている。それが災いし、今年はコンサートに巻き込まれる羽目になった。
無料で行われるコンサートのため、その客数は半端ない。
「俺達も例年は警備なんてしないんですけど、今年はあれですから」
山崎は視線の先に人混みを映す。
「お仕事の邪魔をしちゃって、ごめんなさい」
○○は深く頭を下げた。
「何言ってるんですか。救護活動も仕事のうちですよ。知り合いだからって、関係ありませんし」
山崎とは職場で知り合った。
山崎の上司にあたる人が、○○の勤める『スナックすまいる』の常連客で、彼を呼びに何度か訪れていた。
「それに、仕事をしながら年越しなんて、うんざりでしたけど、○○さんに会えてよかったです」
拝殿の方から、「あと何分!」という声が聞こえて来る。
段々と盛り上がりを見せるイベント会場に合わせ、○○の鼓動も早くなる。
カウントダウンが始まり、○○と山崎は拝殿の方に目を向けた。そちらに目をやると、自然と山崎の横顔が視界に入り込む。