第6章 山崎退《派手なアイドルよりも地味な君の方が輝いている》
《派手なアイドルよりも地味な君の方が輝いている》
除夜の鐘が鳴り響く。
○○は初詣のため、近所の神社を訪れていた。
おじいちゃん、おばあちゃん、親子連れ。毎大晦日ここを訪れている○○は、毎年そのような微笑ましい光景を目にしていた。
だが、今年の様相は違っていた。
「何かあるのかな……」
この寒空の下、丈が膝よりも遥かに上まで短い着物を纏ったギャル達。そんな大群で埋め尽くされている。
彼女達の多くは、手にうちわを持っていた。そこには男性の顔写真、あるいは『GOEMON』などの名が記されている。
コンサート会場で見る、ファン達が手にした応援グッズだ。
明らかに例年の大晦日とは違う。
気づいた時には既に遅し。引き返したくても、流れに逆らえず、どんどんと前へ進むばかり。
どうにか人を抉じ開け、参道から脇へと向かう。あと二、三歩で、ようやく人のいない平穏な地へとたどりつける。そこまで来た所で、ギターの大音量が鳴り響いた。
「キャアアアア!」
同時に、ギャルの津波が参道から拝殿へ向けて迫る。安穏の地は遠ざかった。
波に呑まれかけた○○だったが、腕を引かれ、思いがけず脱出することが出来た。
*
口元を押さえ、○○はしゃがみ込んだ。
人酔いの症状が表れている。
「大丈夫ですか、○○さん」
頭の上に、聞き覚えのある声が降って来た。
顔を上げると、心配そうに覗き込んでいる山崎の顔があった。
「顔色が悪いですよ。少し、歩けますか?」
○○は小さく顔を頷かせた。
ゆっくりと立ち上がり、山崎にもたれながら促されるままに歩いた。
少し行くと摂社があり、拝殿とは比べものにならないくらい穏やかな雰囲気を漂わせていた。
「少し待っていて下さい」
○○を階段に座らせると、山崎は姿を消した。
戻って来た山崎は、温かい缶スープを○○に手渡す。
「ありがとうございます」
○○は頭を下げた。
「どういたしまして」
スープを口に含む。とても温かい。
目を瞑りながらゆっくりと呼吸をすると、次第に体調が戻って来た。
○○が落ち着いたのを見計らい、山崎は問いかけた。