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~あさきみじかしゆめ~ 銀魂短篇集

第1章 高杉晋助《吉原に雨が降る》※遊女/夢主殺されネタ


 木枠の隙間から空を拝む。そこにあるのは鉄の空。
 日の当たらない常夜の闇の中だけが、○○の生きる場所。
 たとえ自由になれたとしても、幼き頃に売られて来た○○には、外の世界で生きて行く術などない。
 この吉原からは出られない……。永遠に……。


《吉原に雨が降る》


「久しぶりね。高杉さん」

 襖が開き見えた顔に、○○は幽かに微笑んだ。
 常夜灯がその顔を黄色く照らし出す。

「もう、いらしてくれないのかと思っていたわ」
「そう遊んでいられる程、俺も暇じゃないんでね」

 ○○の隣に腰を下ろし、高杉は猪口を手に取る。
 真ん丸い月の描かれた、小さな粗陶器。決して見ることの叶わない、金色の光。
 ○○は徳利を取り上げると、片手を添えて猪口に酒を注ぐ。

「三月……、四月になるかしら」

 最後に高杉がこの吉原を訪れて。正確には、この妓楼を訪れて。
 ○○は毎日、二階の部屋から階下を見下ろしている。
 吉原に足を踏み入れる者は、南端に位置するこの妓楼の前を必ず通る。
 それでも、○○が客の相手をしている間に、高杉が他の店に足を運んでいるかもしれない。

「他の女郎屋に行っていたんじゃないの?」
「クク……バカいうな。テメェ以外に行く処なんざねーよ」

 ○○は小さく微笑んだ。
 身に纏う花椿模様の着物が、その表情を艶やかに見せている。

「そう……。じゃあ、今日いらしたのは雨だから、かしら?」

 地下深くに位置する吉原桃源郷。
 一年中、日も当たらなければ、雨も降らない。
 天候に左右されることのない街。

「ほォ。見えもしねーのに空模様がわかるのかィ」
「わかるわ。あの人達が教えてくれるもの」

 ○○は木枠から覗く階下を示した。
 外からやって来る男達。みな、その手に傘を携えている。
 この吉原に住む限り、決して必要にはならないもの。

「雨がどんなものだったかは、もうあまり覚えてはいないけど」
「ロクなもんじゃねーよ。鬱陶しいだけだ」

 高杉は酒を一口、口にした。

「そうだったかもしれないわ。でも、最後にきちんと拝んでくればよかった」

 視線を空へと向ける。
 決して雨の降ることのない、鉄の空。
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