第4章 坂本辰馬《真紅の薔薇》
高台で女は一輪の薔薇を見つけた。
雪に紛れるように添えられた、純白の薔薇。
かつて、自分をそう呼んだ男がいた。
――真紅の薔薇いうがはおんしのことかや?
――おんしにゃー、白い薔薇の方が似合っちゅう。
攘夷戦争に参加するただ一人の女。
自分に対する浪士達の態度は二種類に区分が出来た。
女の分際でと罵るか、下心を抱いて擦り寄って来るか。
下心を抱いて近づいて来る男は大体が体目当てだったが、そうでない者も稀にいた。
そんな者達も、自分が会話をする気などさらさらないことに気づけば次第に離れて行った。
あの男はどちらでもなかった。
男も女も関係なく、一人の同志として見てくれていた。
一輪の薔薇を手に取った。出逢った日のことを思い出す。
――わしは坂本辰馬っちゅーもんじゃ。
彼の笑顔が蘇る。
軽薄で無神経でデリカシーの欠片もない男。
初めはそう思い軽侮すらしていたが、共に戦うにつれて坂本に対する警戒心は消えて行った。
彼は戦場の誰よりも強く、誰よりも武士らしい男だった。
辺りを見回すと、新しい足跡が残っていた。
「辰馬……」
○○は走り出した。