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~あさきみじかしゆめ~ 銀魂短篇集

第29章 高杉晋助《神立》


「助かりました」

 礼を述べながら彼の顔に目を向け、私は体を強張らせた。
 スマホに意識が向いていて気づかなかったが、彼は怖いと感じさせる雰囲気をまとっていた。
 左目は包帯に覆われ、見えている右目は人を射るように鋭い。
 私は深く息を吸い、吐き出した。内面は怖い人ではないはずだ。
 雨脚が強まり、懐にスマホを仕舞った手を頭に載せる。

「あの、下りますか?」

 下山への道を示す。
 彼は無言で歩き出すと、私を追い抜いた。
 追い抜く前に、手にしていた笠を私の頭に載せて。
 家はすぐそこ、びしょ濡れになってもいいと思って雨具は用意していなかった。
 やっぱり、怖い人ではない。

 彼の背を追い、山を下りる。
 その背の向こうから、彼が言葉をかけて来た。

「次の花火は行くのか」
「隣市の花火ですか?」
「ああ」

 来週、また近くで花火大会がある。
 今日は中止になってしまったし、行きたいのは山々だ。

「いえ。来週は母の田舎に行くので」
「そうか」

 会話が終わってしまい、今度は私から訊ねた。

「次の花火は、行くんですか?」

 今日この山に登っていたということは、花火を観に来たのだろう。
 そう疑わず、当たり前のように質問を返した。

「行くだろうな」
「来週の予報は晴れですから、中止になることはなさそうですね」

 楽しんで来て下さいというと、立ち止まり、彼は振り返った。

「さぞかし壮観な煙火が見られるだろうよ」

 そう紡ぐ口元には細い笑みが見えた。
 裏腹に、目の中には翳りが見えた気がした。
 終わりかけの線香花火を見るような、物悲しさを感じさせる瞳だった。
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