第29章 高杉晋助《神立》
そのニュースに触れたのは、祖母の家で寛いでいる最中だった。
――花火大会でテロ事件が起こり、死傷者が出ている模様。
見覚えのある隣市の景色に、不穏な煙火が映し出されていた。
テロリストが使用したと思われる、爆発物の残煙。
私は唾を飲み込んだ。花火に行くと言っていたあの人の顔が思い出され、息が詰まった。
震える手でスマホを握りしめる。
彼が守ってくれた機会の箱には、たくさんの友達との繋がりが入っている。
友達だったら、今すぐに無事を確認するための手段がある。
彼は、連絡先はおろか、名前すら知らない。
無事かどうか、確認する術は何もなかった。
盆の終わりに地元に戻ると、そこは先週と変わらぬ風景。
隣市で凶悪な事件が起こっても、この町に変わりはなかった。
いつもの通りも、近所の公園も、交番の張り紙も――
以前から変わらずにそこに貼られていたことは確か。気に留めずに目にしたことは何度かあっただろう。
凶悪犯罪者が身近に潜んでいるなんてあり得ない。私とは無縁の話。
その指名手配犯の顔に、今は釘付けにされている。
「高杉、晋助……」
指名手配書の一枚は、紛れもない、あの時の彼だった。
どれだけ無関心だったんだろう。何度も目にしていたはずなのに。
彼が巻き込まれた、巻き込まれたと思っていた先日のテロ事件に思い至る。
あのテロ事件を起こしたのは、まさか、この人……?
彼は、本当はあの日にテロ事件を起こすつもりだったんじゃないだろうか。
テロの中心地ではない、少し離れた高台から様子を見下ろすために、あの場所にいた。
それが、花火大会が中止になり、翌週の隣町へと標的が変わった。
気づいていれば、通報できたのに。テロを防ぐことさえ出来たかもしれない。
私の無関心で、死傷者を出してしまったのかもしれない。
けれど……