第28章 土方十四郎《ハッピーバースデーの夜に》
「今日は本当にありがとうございました」
○○は深々と頭を下げた。
土方は○○のいない側の空に向け、煙を吐いた。
「終わったなら、さっさと帰れ」
煙と共に、心にもない言葉を吐き出す。
「ご迷惑でしたよね。本当に申し訳ありませんでした」
○○の声は微かに震えていた。
その顔を見ると、目に見える程に真っ青になっていた。
中庭に降りる土方の表情を○○は見ていた。
その顔には機嫌の悪さが滲み出ていた。
このような催しを土方が好意的には受け止めないだろうことは、○○もわかっていた。
迷惑をかけたことを一言謝罪し、礼を述べるために追って来たが、こんな風に拒絶されるとは思っていなかった。
「失礼します」
「待て」
今にも駆け出していなくなりそうだった○○の腕を、土方は掴んだ。
このまま帰したら、○○は二度と屯所に現れない気がした。
「悪かった」
○○は真選組のことを考え、今日の催しを企画してくれたはずだ。
悪評高い真選組の企画を通すためには、相当の苦労もあったはずだ。
かけるべき言葉は労いと感謝以外の何物でもない。
それを、個人的な妬みで非のない○○を傷つけるような真似をした。最低だ。