第25章 高杉晋助《打ち上げ花火》
「でも綺麗だね」
高杉は夜空に目を向けた。
攘夷戦争を共に戦った仲間を失い、また、たくさんの命を奪った。
そして、大切な恩師を亡くした。
死者の魂が空に向かうなどという幻想は信じてはいないが、恩師の姿が脳裏に浮かぶ。
「そろそろ時間だ」
高杉は立ち上がった。
人々が帰途に就く前、クライマックスを迎える前に、事を起こすと計画している。
「うん。でも、やっぱり残念」
後ろ髪を引かれつつ、○○は窓から離れる。
名残惜しそうな○○の微笑は、憂いを帯びて寂し気にさえ見える。
「ま、これ以上ワガママは言えないね。少しの時間でも楽しかった」
赤、青、緑、橙、紫。
色鮮やかな光が○○の微笑を幻想的に染め上げる。
高杉は○○の腕を掴むと、ソファへと引き倒した。
折り重なるように、高杉は○○に覆い被さる。
○○は眉間に皺を寄せた。
「晋助、今日の目的、忘れてない?」
「忘れてねーよ。アイツらに任せときゃ、どうとでもなる」
万斉を始め、鬼兵隊には歴戦の猛者が揃っている。
頭がいなくても、彼等ならば目的を達するだろう。
「今はこっちの方が大切だ」
豆電球と光露に照らされた○○の顔は、万華鏡のように色を変える。
「○○の腹ン中にでっけぇ花火打ち上げてやるよ」
高杉は口元を緩めて○○を眺める。
「花火が汚れるようなこと言わないで」
ひと際大きな光を放ち、煙花は大空へと姿を消した。
「綺麗だ」
その爆音は高杉の声を掻き消した。
(了)