第25章 高杉晋助《打ち上げ花火》
「晋助、花火! 始まったよ、ホラ!」
○○は窓にへばりつき、夜空に浮かぶ大輪の花を見上げる。
「ホラ、花火!」
窓外を指さしながら、○○は振り返る。
「言われなくても見えてらァ」
ガラス張りの最上階スイートルーム。
壁一面が大きなスクリーンとなって花火が映っている。
部屋のどこにいても、否が応でも目に入る。
「やっぱり、この部屋を取って正解だよ」
○○は楽しげに声を弾ませている。
「今日の目的、忘れてんじゃねーだろうな」
喜色満面の○○とは対照的に、高杉は殺風景な顔でソファに座っている。
豆電球のみに照らされたその顔は仄暗い。
「忘れてないよ」
花火大会が行われる会場近くに○○と高杉がやって来た目的は、観覧などではない。
花火に興じる人々を恐怖に陥れるテロを行うため。
鬼兵隊隊士達は各々、武器弾薬を持って機会をうかがっているだろう。
ホテルの最上階スイートルームに構えているのは、○○の一言が発端。
「せっかくだから花火が見たい」
「人混みは避けたい」
「至近距離から大迫力で見たい」
そんな○○のワガママを無碍にできず、これからテロを行おうという二人に似つかわしくない場所から花火を見ることになっている。
「やっぱり、花火は切ないね」
暗闇に浮かぶ金色の輪。
空に向けての手向けの花。
死者への慰霊と鎮魂を込めて始まった花火の祭りは、物悲しさをもいざなう。