第6章 出会ってしまったひとりと一振り 〔肥前忠広〕
「おにいさん、どうしたの?」
いきなり声を掛けられた肥前は、びくりとからだを強張らせる。
刀剣男士たちは特殊な結界を張ることで気配を薄くし、一般人から気付かれにくいようにしていたのに、周囲を探っていた肥前が困っているように見えたのか若い娘が声を掛けたのだった。
「…なんでもない」
一般人と関わりを持ちたくない肥前はそっけなく答えてぷいとそっぽを向く。
「それなら良いのだけど」
娘は肥前のそっけない様子に気を悪くした様子も見せず、あっさり答えると「邪魔してごめんね」と軽く答えて肥前から離れて行った。
『…結界の張りが甘かったのか…?』
一般人に気付かれるような結界の張りかたが悪かったのか、と自分を少し責めつつも肥前はぴくりと空気がほんの少し変わった空の一辺を見上げた。
『…みな、空の異変に気付いちょる?』
部隊長の陸奥守吉光から通信が入り、全員がそれに気付いている事がわかると、更に結界を各自強めて完全に姿を一般人から消して姿を戦闘体に変え、一気に空中から高い建物の屋上へ集合した。
先程の娘は空を見上げて、彼等の動きに気付いていた。
『どこかの本丸から来ているのね…』
くるりと後ろを向いて娘は歩き出す。