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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第5章 梵天の華Ⅰ





面倒くせぇ。
目の前に広がる光景に、ただ一つそう思う。



「…やっべーな、これ。どうする?」



部屋の扉を蹴りあけ、間を空けずに標的である男の頭を銃で撃ち抜いたあと、灰谷竜胆はオレを振り返って部屋の奥を指さす。
構えた銃をゆっくり下ろしながら竜胆がそう零すと、一緒に突入したオレは思わず「だりぃ…」とこぼす。

見慣れているようでいつもとはどこかしら違うその光景に、オレと竜胆の口からため息が吐き出された。



「べぇッつにスクラップでよくねぇ?殺しちまやァ誰も何も言えねーだろ」
「いや…さすがにオレらだけで解決できねーよコレは」
「…あー、…首領呼ぶかァ」



まるでそれ以外の選択肢などないかのように竜胆が口答えするから、髪をかき乱しながらオレは部屋の外に出た。













「汚ねぇタマだなぁオイ。なに、ヤってたん?」



同じ建物…高層ビル内での呼びかけで部屋に集まってきたのは、梵天の幹部勢。
来て早々、幹部の一人である灰谷蘭が目を向けたのは、竜胆が呆然と見つめる光景ではなく、初め竜胆に撃ち殺された男だった。

下半身を露出したまま床に横たわる、額に穴が空いた男を蹴って転がす蘭。
死体と化し、無駄な脂肪がついた髭面のその男は、今日行った襲撃の一番の標的だ。
抵抗する間もなく殺されてしまったが、特に拷問してなにか情報を聞き出さなければならないほどの立場の人間でもないため、死んでいようと生きていようと、誰も気に留めることはない。



「あー、ヤる寸前?つかソッチはどーでもいーんだよ兄ちゃん。問題はコッチ」



銃を握ったままの手を部屋の奥に向ける竜胆の言葉に、蘭はのそのそと指された部屋の奥へ向かう。
それを部屋の入口の扉に体を預けて見守るオレは、廊下から聞こえてきた二つの足音に目を向け、愛する王の到着に口元が無意識にニヤけた。

梵天のナンバー3である鶴蝶。
そして、崇拝する我らが王、梵天ナンバー1のマイキー。

服や青白い頬にドス黒い血をつけたまま、いつもと変わらぬ感情のない顔でペタペタと不健康な足で歩くマイキー。
ここへ襲撃に来る前に一度ヤクでキメたせいか、足取りがフラフラとしている。

鶴蝶は心底どうでもいいけど…嗚呼、我らが王の到着だオマエら、道を開けろォ?



「オイ灰谷ぃ〜さっさと退けやコラ」



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