第15章 悪いと思ってる《松野千冬》
「千冬って呼んでもいーい?」
吊り気味の目。
さらさらと流れるように揺れる髪。
女にしては少し高めの身長。
桃色にツヤツヤと光る唇。
白く傷ひとつ無いなめらかな手足。
真綿で包みこまれるような、温かい微笑み。
「……あ、っス…」
そう返事をするのがせいいっぱいなくらい彼女は輝いていて、眩しくて、熱が集まりはじめた顔を隠すように俯いた。
一目惚れだった。
「千冬ぅ、オレちょっと迎えに行きてぇやついるから行ってくるワ」
そう言ってすぐ、オレを武蔵神社に置いたままゴキを走らせた場地さんは駐車場を出ていった。
夕方、早めに行くぞと声をかけてきたのはこういうことだったのかと、ようやく理解できた。
まだ人はまばらだし、集会まで時間もある。メインである総長のマイキー君も来ていない。
どう暇をつぶそうか…と悩みながら、駐車場にどんどん人が集まってくるのをボーっと眺めている間に、聞きなれた排気音が聞こえてきて。
わずか、10分足らず。
こんなに早く戻ってくるとは思わず、驚きつつも排気音が止まった場所へ走って向かった。
「ほら降りろ」
「え、降ろしてくれるんじゃないの?」
「乗ったんだから降りれンだろぉが」
「わ〜ケチくさい!」
「はあ?」
そんな軽快な会話が聞こえてくるから、ふと足を止めそうになる。
視線の先には、ゴキに跨ったままの場地さんと……後ろに乗っている、一人の女。
辺りが暗いせいでまだこの位置から顔はよく見えないけど、見たことのある制服を着ている。
黒…いや、紺色のブレザーに、赤いネクタイ。
オレや場地さんと同じ学校の女らしい。
同い年か、オレより年上か…確かめないことにはわからないけど、場地さんとはかなり仲良さげに会話している。
幼なじみ?学校でのダチ?それとも…ヨメだろうか。
「お〜きたきた、千冬ぅ!」
「早かったっスね、場地さん」
「すぐそこだからな」
普通に話しても声が届く距離までいけば、気づいた場地さんは片手をあげてオレを呼んだ。
同時に、場地さんしか見ていなかった女も、オレたちの会話にパッとこっちを向いて…
…──あ。
ぽちゃん、と何かが落ちる音がした。
興味津々に目を見開いてこっちを見つめる瞳に、吸い込まれるかと思った。