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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第13章 パステルピンク《今牛若狭》●




優しい両親の元に生まれてからというもの、あんなにも悲惨な出会いはきっと他にないと思う。



両親が務める会社の転勤続きのせいで、転校ばかりの生活を送ってほしくない…という両親二人の意向で、はとこである真一郎くん、真ちゃんの家に居候して早数年。

高校2年生の、夏休みに突入してすぐのことだった。


近頃見慣れた、黒い特攻服というものを身につけた同い年の真ちゃんを、事故には気をつけてねと見送ったお昼すぎ。
帰りは絶対に連絡すること、と言ったら元気に返事をしていたのに…見送った数分後、居間のソファーに放置されている真ちゃんの携帯電話の存在を目にして、私はため息を吐き出した。

これじゃあ帰りに連絡できないじゃん!真ちゃんのばか!

去年の誕生日にプレゼントしたストラップが下がった真ちゃんの携帯をキュロットスカートにねじ込み、洗面所で少し高めの位置で髪を結って。
私の、亡くなったお爺ちゃんと兄弟である万作さんに留守を頼み、午後はファッション雑誌を一緒に見ようと約束していたエマに謝った。
万ちゃんは遊びに出かけて家にいないし…と、通学用に買ってもらった自転車に跨る。

今日履いているキュロットスカートは膝上10cmくらいだし、風でめくれたとしてもただのスカートより安心だ。



行ったことはないけど、真ちゃんとそのお友達が創設したという暴走族の溜まり場所は教えてもらったことがある。
蒸し暑さで思考回路がやられて道に迷いそうになりながらも、何とか辿りついた。

場所合ってるかな?と不安になったけど、真ちゃんと同じデザインの特攻服を着ている人達がちらほら見えたからひと安心。



「あの、すみません」



近くの一人に声をかければ、周辺にいた人達が一斉にこちらを振り向く。
見た目のイカつさも含めてその威圧感に一瞬だけ怖気付くけど、喧嘩が弱いくせに総長だと言い張っていた真ちゃんの名前を出せば、たぶん大丈夫。



「真ちゃんってどこにいますか?」
「は?」
「何て?」
「?真ちゃ…えと、佐野真一郎」
「…え、総長の知り合いっスか」
「あー、親戚です。ちょっと忘れ物を届…」
「「お疲れ様デス!!!」」
「わっ」



睨みをきかせていた彼らはこれまた一斉に、直角に頭を下げてきた。
勢いに思わず仰け反ってしまうけど…あの、私は場所を教えてほしいだけなんです。


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