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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第11章 梵天の華Ⅲ





どこかで見た顔。
第一印象はそれだった。

ココが言い当てた、蕪谷組のご令嬢である蛍。
2年前に公開された写真よりもちろん、顔は大人びている。
体のあちこちの骨が浮きでるほど痩せ細っていたけど、元々の顔の良さは変わらないらしく、閉じた瞼に隠されている瞳を見たいと思った。

目が覚めたとき、一番にその声を聞いてみたくてずっと付き添った。
ソープランドで嬢たちに体を洗われている間、意識のない蛍の痣と注射痕だらけの体を改めて見て、ここまですンなら殺した方が良かったんじゃねーの、なんて殲滅したビルの連中に対して苛つき、蛍に情を抱いてしまう自分に驚いた。


女に惚れやすい、という自覚はある。
でも別に顔のいい女はいくらでもいるし、ひっきりなしに寄ってくる。
ワンナイトもあれば、何度か誘って気を引いて結局捨てる女もいた。
その数なんてもう覚えちゃいない。

正直蛍は、今まで抱いてきた女の中でも上位に入るほど自分好みの顔だ。
でもヤクザの組長の愛娘だったならもちろん甘やかされて育っただろうし、顔がいいだけで性格は捻じ曲がってんだろうなと勝手に憶測した。

しかし、それは全くの間違いで。
蛍が完全に目覚めた事務所で、躊躇なくオレから奪った銃を突きつけられた時、それは覆された。

この女は、人に銃を向ける度胸とそれ相応の覚悟があるのか。
実弾が入っているのは承知しているはずなのに、周りにいる全員に銃を向けられているのに、怖気づくことなく殺気を溢れさせながら銃口を向ける蛍に、オレの心臓が今までにないほど強く、高い音を鳴らした。

ただの、態度がでかくてワガママな女とは違う。
箱入り娘なんじゃなかったのか。

見ず知らずの連中に好き勝手に嬲られた2年間で、精神がぶっ壊れないなんて…
なんだコイツ。
おもしれぇ。






欲しいな。






気づけば、銃口を向ける竜胆から蛍を庇っていた。

可愛がって、甘やかして、擦り寄ってきたら抱いてやって、目の色が変わるようなら笑って捨てればいい。
組との取引が終わればどうせ消される身だ。

自分好みの顔である蛍。
嫉妬、怒り、屈辱に塗れる、そんな顔も見てみたい。





…それすらも覆されるのは、それから1ヶ月後だった。

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