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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第11章 梵天の華Ⅲ





起きた時から、体調が良くないなと感じていた。

ベッドから起き上がってすぐ、ふらりとめまいがして。熱は無さそうだけど少し吐き気もあり、気持ちもどんよりと落ち込むような…はっきりとは言えないけど、周りの空は晴れているはずなのに自分の所だけ曇って雨が降っている、そんな気持ち。

寝間着から動きやすい服に着替え、それから顔を洗って、朝ごはんを軽めに済ませようとキッチンへ向かった。



そういえば、今日は誰が食材を届けてくれるんだろう。

春千夜さんの家に来て、早くも一ヶ月。
外に出ることは禁止されているけど、それ以外に不自由は全くない。
欲しいものがあるとき、春千夜さんに言えば誰かが届けてくれるし…料理でも、お菓子でも、自分の作りたいものを作れる。

そろそろ、万次郎さんが食べたがっていたたい焼きを作ろうと思い至り、型を準備してもらって…その材料は今日届くはず。

でも今日は作れそうにないかな…と、お粥を作るための小鍋を棚から出して蓋を取った、直後だった。



「っ、え?」



ステンレス製の、薄い灰色をした小鍋の中に、小さな黒い虫が10匹近く蠢いていて。
思わず、小鍋をキッチン用マットの上に落としてしまう。

でも床に虫たちが散らばってしまったら大変なことになるから、と慌ててそれを拾い上げ、排水溝に流してしまおうと流し台に持っていく。
排水溝の網をとって小鍋に水を入れようと小鍋を覗き…手が止まった。


虫が、いない。


床に散らばったのかと床を見渡しても、どこにもいなくて。
まさか見間違い?と思ったけど、確かに小鍋には虫が入っていたし、それらは動いていた。

それじゃあいったいどこに…と目を向けた、ダイニングテーブルの上。
そこに、先ほどとは比べ物にならないほど大量の虫たちが、溢れかえっていた。






そこからは、あまり記憶がなくて。
数匹はよくても大量に集まっている虫が苦手な私は、そのまま寝室に逃げ込んで…でも、寝室に閉じこもってもあちこちから出てきて。
気づけば部屋中を荒らしてしまっていた。

寝室のドアやノブにもたくさんいて、触れなくて、部屋から出られなくなり…奇跡的にベッドには虫がいないため、そこで膝を抱えて耐えるしかないと思った。


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