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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第11章 梵天の華Ⅲ




「…なぁ、兄ちゃん」
「ん〜」
「…こいつ、名前なんだっけ」
「お」



瞼が重くなり、ぼんやりとした頭で思っていたことを口にする。
おやおや、と言いたそうに目を細める兄貴から目を逸らして、拗ねるように唇を尖らせた。

…名前、呼んでやらないこともない。



「蛍チャン」
「…チャンは付けねぇし」



もぞもぞと動き出した女…蛍は、オレの胸元の服を掴んで顔を埋めてくる。
止まったはずの涙を一筋こぼして苦しそうに眉をひそめるから、思わずそれを拭うために手が伸びていた。
すると、安心したように眉は元に戻り、さらにすがりついて来て。
それが何だか嬉しくて、オレの手が自然と蛍の頭を抱き込んだ。

そんなオレの様子に、嬉しそうに微笑んだ兄貴はゆっくりと瞼を閉じて今度こそ眠りにつく。
ふわりと花のように甘い蛍の髪の香りに誘われて、オレも寝ようと目を閉じて…ふと思う。

異性としての女っつーより、蛍は妹系だな。
兄貴とはたぶん、見方が真逆だ。
まだ面と向かってちゃんと話したことねぇし…起きたら、それなりに相手してやろうかな。

嫌いッつってた数時間前までのオレは、いったいどこに行ったのか。
…あーそういや、新しいスマホ買わなきゃだよなぁ。

鼻で笑いそうになって…寸前で意識が飛んだ。






灰谷竜胆side…END
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