第11章 梵天の華Ⅲ
ぶっ殺してぇと思った。
あんなクソみてぇなビルから出してやったのに。
ココが4時間かけて薬抜いてやったのに。
暴れて抵抗しても、暴行しないで優しく声かけてやったのに。
兄貴に銃を向けやがって、あの女…
「オイてめぇ、生きて帰れると思うなよクソ女ッ!!!」
気に入らなくて、心底イライラして、気づけば誰よりも先に女に向かって銃をぶっ放しそうになっていた。
なのに人質になっている当の兄貴は、いつも通り余裕をもった顔で呑気に微笑んでいて…調子が狂う。
オレの気も知らないで…
こっちは心配してンのに。
ビルで女を見つけた時から、何となく気づいていた。
まるで女を庇うような行動。
壊れ物を扱うように触れる手と、殺されそうになってんのに余裕ぶって目を細めて微笑みを浮かべる気の抜けた表情。
生まれた時から一緒にいた実の兄だから、さすがに気づく。
「竜胆やめろ〜?蛍チャン怯えてる」
すぐ捨てるくせに、惚れやすい。
ほんと…兄ちゃんのそういうトコ、オレ嫌いなんだよな。
「行かねぇから」
「はあ?」
「行きたくねぇ」
「…りんど〜、この歳にもなってワガママ言ってんなよ」
「ヤダ。オレは行かねぇ、行っても降りねぇ!」
乗りなれた車の中で、一人分のスペースを空けて隣に座っている兄貴から勢いよく顔を背けた。
女を三途の家に軟禁してから、一ヶ月がたったある日。
ボスと三途、それから鶴蝶が今朝から明日の夕方まで帰ってこれないほどの遠くへ出張し、出発した朝5時に迷惑な電話がかかってきた。
《持っていくだけでいい、ドア開けて玄関に置い…ッあ、オイ何すん、》
《おぉい竜胆てめぇ蛍に触んじゃねーぞブラコン野郎にも言っとけッ!!》
鶴蝶からの電話なのに、朝っぱらからヤク中の叫び声が寝室に響いて。
思わずスマホを投げ飛ばしそうになった。
電話越しなのに響くってどういうこった、うるせぇよオレの耳に迷惑だと思わねぇのかキマってんのか?
つかブラコン野郎って兄貴のことかよ?また喧嘩すんだからあんまそーいうこと言うなよ…
いやンなことよりあの女のこと呼び捨てしてんのかよアイツ?何でそんな仲良くなってんだどーせ捨てンだから馴染む必要は、…は?意味わかんねぇしツッコミどころが多いわ。