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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第10章 黒龍の泣き虫くん②《佐野真一郎》




「えー…?え、すげぇ、…ここに?まじでいんの?めっちゃ腹薄いけど?」
「いるってば。まだ8週目だしお腹は出ない」
「8週…ってことは、2ヶ月くらい?」
「うん」



あたしの、まだ変化のないお腹を愛おしそうに優しく撫で…リビングに鼻をすする音が響く。



「ぅ、グスッ、蛍〜!」
「ちょ、ふふ、泣きすぎ!」
「だって、…だってさぁ嬉しくて…っ」
「もー…黒龍の泣き虫くんは健在かぁ?」
「なっ、泣き虫じゃねぇし…!それに元黒龍だっ」
「そう?あたしにとっては今も昔も変わんないと思ってるけど」



でも父親になるんだから、泣かないで。

そう言って真の涙を拭えば、手に擦り寄ってくる。
それがまるで子供のようで…でも、あたしの頬を包み込む手のひらは大きくて、優しくて、頼りになる温もり。

一度失いかけた、最愛の人。
廃倉庫であんたに告白された、あたしたちにとって最初のあの日が、始まりが、嘘のよう。

真に出会えて良かったよ。
幸せをありがとう。
男と関わろうとしなかったあたしに、新しい人生をありがとう。

何度でも言うよ。
ありがとう、って。
幸せだ、って。



「…好き、蛍大好き…」
「…愛してるって言ってよ。夫婦なんだから」
「うわ…うわ〜…出会った頃より丸くなりすぎだろ…」
「うっさい」
「…愛してる、蛍」
「うん…あたしも、真を愛してる」



ゆっくりと唇を寄せあって、キスをする。
神の前で愛を誓い合ったあたしたちには、啄むだけのキスじゃ足りないことはわかりきっていて…すぐ、どちらからともなく口を開き、舌をくっつけた。

ゆるく吸うようにあたしの舌を絡めとる真の舌に酔いしれながら、隙をついて少しカサついた唇を舐めあげる。
クチュ、と小さな水音が響いて、ゾクゾクと鳥肌がたち始め…
薄く目を開いている真と見つめ合って、透明な糸を引きながら少しだけ離れた。

でもまだ足りない気がして、イタズラに真の耳をやんわりと弄る。
真の手もあたしの首筋を這って、焦らすように鎖骨をなぞったり、耳を指先で甘く引っ張ったり…。

熱を帯びはじめた真の目に、あたしは「あ、やばい」と思った。



「…蛍、ベッド行こ」
「何言ってんの、安定期までできないし」
「え?……あ゙ッ」



お預け、ってことで。



END
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