第8章 飛び級しますッ《場地圭介》
「結婚してくださいッ!!!」
「……は?」
出会いは、そう。
来年に大学受験を控えた、高校2年の初夏だった。
初夏、と言えども6月下旬。
数日後には7月に突入する。
早く夏休みにならないかなぁ、なんて思いながら道端の小石を蹴り、まだ沈みそうにない夕日をボーッと見つめる。
梅雨が明けたのに、未だにじめじめとした髪の大敵である湿気に嫌気がさしながらも、その日も塾の帰り道を歩いていた。
カバンに入っている無駄にぶ厚い参考書が重たいし、お腹すいたし、お昼のお弁当の大好きなミートボールを友達にかっさらわれたショックが未だに消えないし、塾で渡された絶対に一晩で終われるわけがない量の宿題をこの後、家でやらなきゃいけないと考えるのも憂鬱だし。
あしたの塾の時間に提出?ふざけてんの?無慈悲にも程がある。学生はヒマじゃないんだよ。忙しいんだよ、遊ばなきゃいけないんだよ学生はぁッ!!
ってことで寄り道をしよう。
つい最近、帰り道の一本隣の住宅街に、ペットショップが開店したという話をミートボールを奪った友達から聞いた。
友達が行きたがっていたお店だから、行ったことをあした自慢してやろう。
フフン、ちょっと気持ちが晴れたぞ。
「…あー、あそこかなぁ」
夕日はまだ沈んでいないけど、時刻は6時半前。
閉店していてもおかしくはないけど……ラッキー!まだ明かりがついているし看板もお店の外に出ている!
「にゃんこいるかなぁ、いたら撫でさせてもらえるかなぁ」
ぶつぶつ独り言を呟いて、すれ違う人々にチラ見されても気にせず、お店へ近づく。
あと数メートル…という所まで行った時、お店から誰かが出てきた。
短い黒髪の、昼間の猫みたいな目をした男の人。
エプロンをしているから…たぶん店員さんだ。
にゃんこがいるかどうか聞いてみよう。
「すいませーん」
「…え、あ、はい!なんですか」
「にゃん…猫ってお店にいます?」
「あー、いますよ。今さっきご飯食べたばっかで寝てるやつ多いですけど」
「大丈夫です!見てもいいですか?」
「どーぞー」
にゃんこがいるなら最高だ!
あわよくば常連に…!
なんて、にゃんこや他の物を買うわけでもないのに、張り切ってお店に足を踏み入れた…瞬間。
「おーいらっしゃ…」
冒頭の通りである。