第7章 あげるから、もらって《松野千冬》●
──いつ果てたかなんて、全く覚えてないくらい…初体験は気持ちよかった。
オレが、蛍の処女を貰って…同時に果てることができるなんて、これ以上に幸せなことなんてあるのだろうか。
「…蛍、」
「……ん…」
「ありがとな」
返事は返ってこなかったけど。
酷く疲れているような、でも幸せそうな顔ですやすやと眠る蛍に、そっと触れるだけのキスをして。
プロポーズはやっぱ卒業してからだよなー……なんて。
小さく笑って、蛍の髪に顔を埋めながらオレも目を閉じた。
そして、後日。
「お、邪魔しま、ス…」
「いらっしゃい千冬くん!さ、座って?お菓子食べましょ〜」
それから4日後に、お義母さんが待っている蛍の家に訪れた。
紅茶やお菓子をダイニングテーブルに並べて出迎えてくれたお義母さんは、ご機嫌なようでニコニコしているけど…気のせいだろうか。頭に角が見えている気がする。
「早いわねぇ、蛍がもうそんな歳になったなんて……ついこないだまでオムツ履いてたのにねぇ〜?」
「お母さんその言い方イヤ…」
「あら。親にとっては子供はいくつになっても子供なのよ?
で、ちゃんと避妊したよね?」
頬杖をついてふふふ、とにこやかに笑うお義母さん…
急に真顔になるのはやめてクダサイ。
「し、しましたモチロン」
「まあお父さんにはバレてないから、キスマークも大丈夫そうね」
慌てて頷くオレの隣で、顔を覆って俯いている蛍。
耳まで真っ赤なのを見てしまって、オレも釣られて顔に熱が集まる。
…言っても、いいだろうか。
今、ここで。
「…あの、お義母さん」
「あらま。なんかお義母さんて呼ばれると緊張しちゃう♡」
「…今この場を借りて、蛍、さんとの結婚を申し込むことって…」
「えっ千冬!?」
「ま!やだ千冬くんたら!何言ってるのよも〜っ」
冗談はよして〜!なんて笑って手を振るお義母さんに、オレは顔を引き締めて「いや、冗談じゃないんスけど、」と言葉を続けようとして…やめた。
「やぁね〜。…嫁にはまだやらねぇぞ」
「ウッスすんません出過ぎました」
蕪谷家のリビングに、鬼がいた。
ウン…結婚の話はまだ無理そうだな…。
END