第7章 あげるから、もらって《松野千冬》●
「嘘だろ…蛍ー、起き…おいこら」
生乾きの髪はソファーのひじ掛け部分に広がり、横向きですやすやと眠っている蛍の服の裾がめくれてチラッと腹部が見えている。
15分…いや10分くらいしか経ってないはずなのに。
なぜ寝る。
「……生殺しはもう、マジでキツいんだって」
見えている蛍の腹部に、裾をさらにめくるようにするりと手を這わせながら、ソファーの空いている部分に静かに腰掛ける。
キシッ…とリビングに音が響いても、蛍は起きる気配がない。
まさか本当に起きないんじゃ…と不安になりながらも、いじる手は止めないことにした。
蛍のわずかに濡れたままの髪を耳にかけ、そこに唇を落とす。
少しだけ舌を使いながらキスをしていると、さすがに擽ったくなったのか「ん゙ん…」とくぐもった声を漏らした。
でも、起きない。
…こうなったら勝手に続けてやる。
「…お前が悪いんだからな」
背中に片手をまわし、ブラのホックを外そうとその場所へ手を滑らせ…ふと硬直する。
引っかかりがない。
背筋を上までなぞってみても、何も無い。
…つまり?え、まさか。
「…は、ノーブラ?」
もそもそとさらに探ってみても、夏休みの時に触れたものがまったく手に触れない。
動かす手がさすがに擽ったかったのか、蛍はようやく目を開け始めた。
「ん…ちふ…」
「…お前さぁ、寝るなよな」
「んぅ…ごめん、急に眠くなっちゃって」
「まぁ起きたからいーけど。…いっこ聞いていいか」
「なに?」
「ノーブラ?だよな」
背中から、脇腹の方に手を移動させながら顔を近づけて問えば、目をこすってふにゃりと笑っていた蛍の顔が、じわじわと真っ赤に染まっていく。
胸元を隠すように両腕をクロスさせる蛍は、横目にちらちらとオレに視線を送ってきた。
「…うん、着けてない…」
「なんで?」
「……っ、言わなきゃダメなの…?」
「ん、言ってほしい」
スルリと頬を指先で撫でれば、擽ったそうに肩をすくめて視線を逸らしながら「…この後、すぐ脱いじゃう…から…」と、蚊の鳴くような声で呟く。
恥ずかしがりながらも言ってくれたことが嬉しくて、でも悟られないように「ふーん?」と素っ気なく返事をした。