第1章 revenge1
飲みもん持ってくるからと、彼が部屋を出ていって、1人になってしまった。
入り口から動けないままでいる。
お兄さんの話を聞いて私は、愛美愛主に仕返しするのはやめてと言えるだろうか。
今でも中々言えないのに。
考えてるうちに彼が戻ってきてしまった。
「なんで立ったままなんだよ、座れよ。」
コップをテーブルに置いて、私の手を引いていく。
ソファーに並んで座って、出された麦茶を少し飲んだ。
「オレの兄貴の名前、真一郎っていうんだ。」
そう言って彼は、拳を強く握った。
乗り切れるはずなんてないよね、大好きなお兄さんだったんだから。
「殺されたんだ、ダチに。」
っ!?
なにそれ、そんなの・・・そんなの辛すぎるっ・・・!
「東卍創設メンバーの一虎に殺された。仕方なかった・・・なんてオレは思えない。」
泣いちゃダメなのに・・・彼が泣いてないのに・・・。
堪えようとすればする程、涙が溢れてくる。
「一虎と場地はオレの誕生日にバブをくれようとしてた。でもバブなんて譲ってくれる先輩もいないし、ガキのオレらが買えるはずない。だから2人はバイク屋に忍び込んで、盗もうとした。そのバイク屋は兄貴の店だった。」
「兄貴に見つかって、一虎はチェーンカッターで兄貴の頭を殴った。」
友達が自分の為にしようとしてくれたことが、そんなことになるなんて信じられないよね。
「2人が盗もうとしてたバブは、兄貴がオレの誕生日にくれるはずのものだったんだ。・・・オレは場地は許せても、兄貴を殺したあいつだけは許せない。」
仕方なかったで終わらせられるはずないよね。
拳を強く握って震える彼は、とても小さく見えた。
彼はまだ中学生なのに、お兄さんがなくなった辛さを必死で抑えようとしている。
彼の拳を優しく包んで、頬にキスをした。
「星那・・・?」
「泣いていいんだよ。」
彼の頭を包み込むように、優しく胸に抱き締めた。
苦しそうな息遣いが聞こえる。
「貴方の辛さも苦しさも悔しさも悲しさも怒りも全て、私に分けて。」
どうか愛しい彼が、負の感情に呑み込まれませんように・・・。