第1章 R h p l ss
温めたミルクにトロトロと蜂蜜を垂らせば
それはマイキーのお気に入りのホットミルクの完成だ。
この歳になっても甘味を好んで口に運んだ。
大人になり損ねた己の舌を恨んだことは一度もなくお手製の甘ったるいホットミルクを啜りながらマイキー、佐野万次郎は隣で眠り続けている女性の髪を撫でた。
一苗字 名前一
懐かしい響きと温もりが万次郎の心を満たした。
「髪、伸びたな」
さらさらと指先で長い栗色の髪を弄び、優しい眼差しの先にはすやすやと眠り続けている名前の姿があった。
一オレの人生は苦しみだけだった。
兄貴も妹も場地も三ツ谷も一虎もタケミっちも・・・ケンチンも。
他の東卍メンバー皆喪った。
否、奪ったんだこの手で。
己の中に渦巻くドス黒い感情に身を任せ皆が離れる前に失う前に居なくなる前にどうしようもなく大好きなアイツらを全員、殺した。
日本で指名手配されているオレはフィリピンに身を隠し
兄貴が語った場所-天井ぶっ壊れた廃墟に大量のスクラップ-が溢れたあの場所に兄貴の面影を探し足繁く通っている。
季節は6月、フィリピンにとっては雨季だ。
曇天の空はまるで万次郎の心模様を映し出しているかのようでぽたりと空から雫を零した、と同時に激しいスコールとなった。激しく降り続いた雨にうたれ万次郎は俯き、瓦礫の山の頂点に腰を下ろし続けていた。
目を閉じれば皆の笑顔が見え
『マイキー!』
耳をすませばオレのナマエを呼ぶ皆の声が聞こえる
震える己の膝を抱え皆の声に、温もりに包まれる。
一あぁ、ココには皆が居る一
水溜まりに反射した万次郎の瞳は潤んでおらず
ただただ淀み、闇に呑まれていた。
懐かしい思い出をたっぷりと味わった後
ふと我に帰った時には日が暮れかけていた。
帰路へ向けてよろよろと歩き出し路地裏を抜けようとした時
万次郎の瞳に光が灯った。
過去のアイツが、居るはずの無いアイツがここに居た。
栗色で猫毛気質な長い髪
吸い込まれそうな程凛とした栗色の瞳に長いまつ毛
日焼けを知らない白い肌
一目見てわかった。
アイツは、オレの好きだったヤツ・・・名前だ。
「諦めんな」
万次郎はそう叫び、飛んだ。