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~月夜の紅~ 銀魂原作沿い小説

第1章 【序】月夜の紅


 月が出ていた。満月。
 その明かりだけを頼りに歩いた。
 朦朧とする意識の中。
 体の痛みに耐え、繁華街を目指した。
 早く、人のいる所へ。

 塀に体を預け、寄り添うように歩いた。
 途中、その表札を見つけて足を止めた。
 霞んだ目で辛うじて読み取れる。
 そこは、幕府直属の武力組織。

「しん、せ……み……」

 恨み、憎しみ、哀しみ。
 走馬灯のように蘇り、襲い来る感情。
 握った拳が震える。その感覚は乏しい。

「……っ」

 突然、激しい頭痛に襲われ、目の前が真っ白になった。
 体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。

 苦しい。
 胸が痛い。
 助けて。

 真っ白な視界の中に、男の背中がうっすらと見えた。
 彼がここにいるはずはない。幻だとはわかっている。
 それでも手を伸ばし、必死に救いを求める。
 その背中は、徐々に遠ざかって行く。

「たす……て」

 目頭に熱いものが込み上げる。
 助けて。助けて。

 ――二度と俺の前に現れるんじゃねェ

 拒絶の言葉を残し、その姿は見えなくなった。

「……け、て。し、ん…………」

 月が雲に覆われた頃、意識を失った。
 白い肌が、さらに青白さを増していく。

「なんでィ、ありゃ」

 少年は女を見つけた。
 再び月が顔を覗かせた時分。
 それは、今から入ろうとしている門に凭れていた。

 よく見たその顔には、血が流れている。
 額から止めどない鮮血。
 それは意図されているかのように、白い肌に映えていた。
 まるで彫刻のよう。
 少年は惹きつけられるように足を進めた。
 手を伸ばして触れたその頬は、生身の温かさを帯びていた。
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