第6章 丁子桜
ートントン
「至さん?入ります」
とっ散らかった真っ暗な部屋に唯一見えるのは、pcに照らされたさんのちょんまげ。
「至さーん、台本とお夕飯置いておきますね」
私に気付きもしないでパソコンと向き合ってる。
…真剣な表情で。
ーコンコン
少しまずいと思いながらも、開きかけたドア。
「至さん、居ますか。立花ですけど
芽李ちゃんもきたと思うんですけど…?
至さん、入りますよ?」
どうしよう、ドア閉めるべき?
「入るな!」
ビクッと肩が揺れる。
「い、至さん?」
「あーマジふざけんなよ。今ので3キルは逃した。
くそ、殺すぞ雑魚」
「いいいい至さん?」
「勝手に入ってんじゃねーよ。今取り込み中なの、見てわかんない?」
ずんずんといづみちゃんに寄って、いわいる壁ドンをしている状況下、2人の世界になっているのをいいことにこっそり出ようかとすれば、ギンギンの捕食者の目で私を捕らえた至さん。
「取り込み中っていうか、ゲーム中……というか、どちら様ですか?」
「茅ヶ崎至ですけど何か?」
「えええええ……。」
そうなる、そうなるよねいづみちゃん。
「さ、さては、よっぽど具合が悪いんですね……!?
あの、脚本、読んどいてください!
配役も書いてありますから!お大事に!お邪魔しました!」
でも、私も連れてって欲しかった…な、
「わたし、も。失礼しま」
「待てよ、何行こうとしてんの?いつから居たの?」
ピューっと居なくなってしまったいづみちゃんが恋しい。
「入る時声もかけましたし、具合悪いってお話だったので雑炊作ったし台本頼まれたからそれを渡そうと」
「へぇ。………もう怖くないの?」
「っ!至さんだって分かったから、この間教えてくれたから、へいきです。さっきのは少し怖かったですけど」
少しずつ至さんの目が優しくなっていく。
「ふーん。…あ、監督さんにフォローしといてよ、寮母さん。」
「わかりました。けど、どうするんですか?」
「別にどうもしないよ、バレたらバレたで仕方ないと思ってたし。」
そう言ってパソコンにもう一度向き合う至さん。
「明日の稽古どうするんですか、」
「あぁ、そっち?…まぁ、程々にやるよ。心配しなくてもこのくらいならすぐ読み終わる。」